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第2幕初話 花の舞い散る桜の如し 「さて、言わなくて悪かったな。この桜楼閣3代目は俺だ」葎は先刻とは全く違う、紺地に濃い緑の縁取りのしてある、異国風の着物を着て幸村の前に現れた。 少し長めの色素の抜かれた髪は後に流して綺麗に整えられ、軽く額に落ちる髪が色香を漂わせている。 漆黒の瞳には力があり、その瞳の色と髪の色の妙なバランスが葎にはとても似合っていた。 普通に考えても、若すぎる楼主。 「まさか…葎がなんて思ってなかった・・・」 幸村は葎の前に座らされ、そう呟いた。 先刻、不知火と李蝶に連れてこられ、その二人は幸村を、葎が座るだろう場所の前に座らせると、さっさと自分達の仕事へ戻ると言って出て行ってしまった。 幸村が連れてこられた場所は桜楼閣の頂上で、無駄に広い、仕切りの無い宴会場の様な所だ。 ただ、宴会場ではないらしく、ゆうに50畳はあるだろうに、所々に花魁の着物があったり卓上があったり、屏風があったりする。 恐らく、葎が仕事をする多用途の仕事部屋なのだろう。 「さて、本題だ。ここで働く気はあるか?勿論、色子としてだ」 「雇ってくれるのなら」 「良いだろう。俺はお前が気に入っているよ。ただ、雇うにはそれなりに理由が要る。ここで働いている者には大抵理由が有るからな」 「理由?」 「そう。例えば、ここで働いている花魁の中では、親が病気で薬代がいるとか、借金があるとか、そういう理由だ。お前は何で陰間寵で働こうと思った?」 楼主らしい葎の質問に、どう答えるべきかと迷う。 しかし、幸村は葎の目を見て、あやふやな誤魔化しなどきかないと悟った。 葎の目は沢山の色子を抱える、今まで色々な人間を見てきた人間そのものの目で、嘘などすぐに見破ってしまうだろう。 しかも、恐らくは様々は修羅場を乗り切ってきたのだろう。その瞳には、力がある。 「お金が必要なわけじゃない」 「だろうな。じゃあ、理由はなんだ?悪いが、安易な理由だと、うちで花魁として雇うわけにはいかない」 ある程度、幸村が話さなくても金が必要ではないという事は分かっているだろう。 茶屋で見せた、葎の洞察力や観察力。 真剣なその目に、幸村は覚悟を決めるしかなかった。 「忘れたい事がある」 「…ほぅ?その忘れたい事ってのは何だ?」 幸村の言葉に、楼主は興味有り気に幸村を見据えた。 「好きな人が…」 「死んだか?」 「ううん。好きな人が近くにいるのに、求められるのにそれを返すことが出来ない。自分とは年が離れ過ぎてるし、汚したくない」 「で、その相手は?今何処に?」 「僕が町へ出した。本当は一緒に暮してたけど、僕が…耐えられなかった・・っ」 思わぬ所で、ふいに幸村の視界が霞んできた。 思い出したくない。 脳裡に焼きついて離れない光景を。 町へ出す時の、あの突き放された様な悲痛に歪む表情と、やりきれないと射る様に見てくる視線が幸村の体を包んできた、あの時の感情。 絶望が目の前を覆い、引き摺られる様に山を下りていった光景。 いっそ、裏切ったとでも思っていて欲しいのに、明らかにそうではなかったあの瞳。 「幸村、それでお前はここで働いてどうしたいんだ?」 幸村の頬に伝う涙を見て、葎は幸村の傍まで来て涙を拭ってやり、顎を掬って自分の方を向かせた。 その涙で濡れた瞳や、泣いて濡れた唇が艶めかしい。 商売柄、色子に最適だと、本能で思ってしまう。 「忘れられる『時』が、ここにはあるから」 「セックスか?」 「他に一緒に暮してた人達に、僕はいつも快楽を求めてた。でも、もう皆とは耐えられないから」 「…良いだろう、合格だ。ならば…そうだな、来月からここで働け。それまでは、この桜楼閣の事を学べ。俺が教えてやる」 「…良いの?」 こんな理由で本当に良いのかと、幸村は涙を流したまま、楼主を見上げた。 しかし楼主は、にっこりと優しく微笑んでいた。気遣うなどという微笑ではなく、本当に優しく、慈しむように。 「ああ」 「有難う」 「いや。・・・全く、お前みたいな理由で陰間寵に来る奴は初めてだ」 葎は溜息を付き、幸村を抱きしめる。 「つらい過去があったんだな」 楼主として、色子に肩入れしてはいけないと分かっているのに、どうしても、幸村相手だと狂ってくる。 まだ会って一日も経っていないのに、何故か、幸村の涙が痛かった。 「神楽、幸村の部屋を用意してやってくれ」 「・・・かしこまりました」 幸村との話が終わり、後からやって来た神楽から散々小言を言われた葎は、その小言を途中で切り替えるようにそう神楽に告げると、神楽は話を途中ですり替えられたのに軽く額に青筋を浮かべた。 しかし楼主の命に背くことなど出来ず、礼の姿勢を取る。 「俺の部屋の隣が空いてただろ。そこに幸村の物を用意してやってくれ。来月には水揚げをさせる。それまでは俺が面倒をみるからな」 「な…ッ!? 楼主!そんな特別扱いなど許されません!! 他の者と同じ様に色子に着けてから水揚げを・・・」 「こいつに小姓をさせる必要はない。教養も、知識もある。必要なのはこの楼閣の内部事情事だけだ」 「ならばその間だけでも誰かにつけるべきです!」 「神楽!楼主は俺だ。それは俺が決める事だろう」 「っ…出過ぎた口を…。しかし…お言葉ですが、もしも他の花魁と折り合いが悪くなるという事が…」 「お前の気持ちは分かる。でもその心配はないだろう。不知火と李蝶もこいつを気に入っているからな」 「あの二人が…ですか?」 神楽が、ちらりと横目で幸村を見やる。 二人の様子を見ていた幸村は、不安気な面持ちで会話の成り行きを見守る事しか出来ない。 「…それならば・・・」 神楽の口調が、二人の名を出されただけで緩くなった。 それまで怒りと焦りを抑えたような口調とはまるで違っていて、不知火と李蝶の二人の存在がどの様なものか、幸村にはそれだけで分かった。 恐らく二人は、この桜楼閣の中でも相当『上』の人間だろう。 (あの二人、そんなに凄いんだ…。まぁ、あの容姿なら分からなくも無いけど…) 幸村は、先刻自分をこの部屋まで連れてきてくれた二人の顔を思い出す。 ここまで上ってくるまでに、気さくに話しかけてくる内容は楽しかった。 「決まりだ。幸村、今日は俺の部屋へ来い。明日までには部屋を用意させよう」 「有難う」 「幸村さん、改めまして、楼主の側近を勤めます、神楽と申します。先刻の失礼をお詫び致します」 「いえ、こちらこそ。よろしくお願いします」 幸村に向って腰を折る神楽に、幸村も礼を取った。 その様子は物腰豊かで、神楽はそれを不審に思った様だ。 幸村の出は『真田』という名のある名家で、いくら人質に出されていた事があったと言えど、昔からの教育はそれなりに受けている。 以前はそれが必要だったのに、今はそれがここでは裏目に出そうになっていた。 「…失礼ですが、出家はどちらですか?」 間違いなく、下町の出ではないだろうという、神楽の質問の仕方は、『出家』という言葉で表現されていた。 「え…と、あの…」 「神楽、余計な詮索は無用だ」 神楽が幸村に対した問いに、幸村が口ごもった隙をついて、葎がそれを止めた。 「申し訳ありません…。それでは・・」 更に不信に思っただろう神楽は書類を持って、幸村を気にしながらその場を去る。 神楽の一つに束ねられた長い黒髪が、窓から入ってくる風に流されていた。 「悪いな、いつもはあんな奴じゃないんだが…」 「ううん、仕方ないよ」 「幸村、悪いんだが少しの間俺の部屋に一人でいてくれるか?調べにゃならんことがあるんだ。それとも、色々ここの事を勉強がてら誰か花魁を来させるか?」 「え、あ・・ううん。一人で待ってる」 「そうか。じゃあ、悪いが行ってくる」 葎はそれだけを言って、遠い先の隣の部屋を指し示すと、苦笑いを零しながらその場を立ち去り、桜楼へと下りていった。 残されたのは幸村ただ一人。 こんな広い場所にたった一人残された幸村のする事と言えば、恐らく仕事をしに下りて行ったのだろう葎の帰ってくるのを、外でも眺めて大人しく待つのみだった。 「――ら、幸村」 「ん…」 「やっと起きたか?」 霞む目を擦りながら、幸村は揺さぶられて目を覚ました。 まだぼーっとする頭を回転させようと、周りを見渡す。 周りは質素な作りの畳座敷。 端の方には机があり、その上には硯箱。 黒い縁取りの、丸く大きな障子は開けられ、そこからは心地良い夜風が入ってきている。 見渡して、やっと頭が理解してきた。 「…ごめん、寝ちゃってた」 「仕方ないさ。疲れてたんだろう。…幸村、悪いが眠いついでに目の覚める事をしようか」 ついでじゃない…、そう、幸村は言おうとしたが、再び着替えられた葎の格好に目を奪われた。 葎の格好はかなり前の肌蹴てしまっている黒の薄着一枚で、体のラインがはっきりと分かってしまうそれは、昼間の格好では分からなかったが、かなり逞しい体をしていた。 厚い胸板は男らしく、無駄な贅肉の無い体は嫌な筋肉のつき方ではなく、寧ろ滑らかで、同性の幸村から見ても綺麗だ。 そして、先刻風呂にでも入って来たのだろう。後ろに手櫛で流した髪は濡れ、水が滴っている。 「ん?どうした?」 「え…あ、なんでもない!」 幸村はバッと視線を逸らす。 何となく、恥ずかしい気持になった幸村は、再び葎の方を見る事が出来ない。 「なら良いが…。幸村、敢えて聞くことでもないと思うが、今まで男に抱かれた事は?」 書類に目を通しながら、葎は「聞かねぇとマズいんだ」と苦笑いを浮かべながら幸村に尋ねた。 「あるよ」 「…さっきも聞いたな。んじゃあ次だ。反対に男を抱いた事は?」 「…ない、かなぁ」 「じゃあ次。不感症、何て事は無いよな?」 「多分ね。触られれば感じるし」 「じゃあ、遅漏もしくは早漏?」 「…普通…だと思う」 何でこんな事まで応えさせるのだろうと思いながら、幸村は応える。 普通がどれ位かあまり分からないが、色町の、男に慣れた何でもズバズバと言ってくる娼婦と呼ばれる者達にも言われた事が無いから、恐らく普通なのだろう。 「なら良い。んじゃあ次は…異物…って、なんだコレ。こんな欄あったかぁ?まぁ良いや。異物を挿入られた経験は?」 「・・・あるよ」 「犯された事は?」 「…ある」 思い出したくないが、仕方無く幸村は溜息と一緒に吐き出した。 過去に一度。あれは一人でぶらぶらと山奥へ暇つぶしに出掛けた時だったか。 まさかそんな山奥に山賊などがいると思わなかった幸村は、どうやら油断していた様だった。 その近辺の山賊は厄介で、顔が良い云うと男でも女でも見境無かった。 羽交い絞めにされ、どんなに抵抗しても数人の怪力の山賊などに敵うはず無い。 秘部は慣らされずに挿入られて裂け、口にはその汚い物を銜えさせられ、犯された。 気付いた時には、屋敷にいて、十勇士が幸村を心配そうにしていた。 その後の事は、幸村は全く覚えていない。 「うっしゃ、終わりっと。んじゃあ、ちょっとごめんよ」 そう軽い口調で言うと、書類をバサッと卓上に投げ捨て、葎は幸村を軽々と抱き上げた。 「うっわ、軽いなぁ」 「ちょっ!何!? 自分で立てるよっ!」 「まぁ気にすんな」 笑いながら、葎は幸村を襖で仕切られた、隣の部屋に敷いてある布団の上に優しくゆっくりと下ろした。 「何するの?」 「感度チェックやら、色々な」 「…ふぅん」 下ろされた幸村は、葎を見上げながら興味無さそうに呟いた。 「嫌がんねぇんだ?」 「別に」 「そっか」 葎は優しく微笑み、するっ、と幸村の着物の袷から手を入れてくる。 「んっ…」 胸の突起を探し当て、捏ねる様にそれを摘んだり潰したりを繰り返す。 「ぁ…ヤだ…」 些細な愛撫で、幸村いやいやをする様に首を振り、葎の下で葎を押し退け様ともがく。すると、律は妖しい笑みを湛え、何かを企んでいるかの様に笑った。 「もっと?」 「ン…ぁ」 甘い声が漏れ、幸村は恥かしさから頬を赤く染めた。 段々と幸村の瞳が潤む。 もっと泣かせたいという、男の性が疼きだすその幸村の仕草は官能的で。 「悪いけど、痛い事したくねぇから暴れんなよ?」 笑って、葎は幸村の着物を剥ぎ取った。 「ぁっ…」 「…細いな」 幸村は真っ赤になって、薄布団を掻き抱いて体を隠す様に覆った。 しかし、葎はそれを咎めたり無理矢理布団を取ろうとまではしない。 その代わりに、眉を顰める。 「…どんな痩せ方したんだ?」 先刻、少しだけ見た幸村の体は、見た目よりも遙に細い。 急激な痩せ方をした体のそれだった。 「あの…」 「…ああ、悪い。幸村、ちょっと良いか?」 じっと見られる葎の視線に耐えられなくなった幸村が声をかければ、それにハッとした様に視線を一瞬空を彷徨わせ、ゆっくりと幸村の布団に手をかけた。 「ゃっ…」 「何にもしねぇから。お前が嫌だって言うなら、無理矢理なんてしねぇし。な?布団、退けて」 やんわりと言う葎の言葉に、幸村は布団に入れた力を緩める。 それを、葎はそっと幸村から退けた。 白く木目細かい肌に、なだらかな体のライン。 まだきつく残っている鬱血は、恐らくここ1〜2日、もしくは今日付けられたばかりだろう、はっきりとついている。 鎖骨、胸元、至る所にあるそれは、幸村の白い肌にはよく映えた。 しかし、それ以上に印象的に痛々しく、見て分かる位に肋骨が浮き出ている。 幸村には、それはとても不似合いだ。 「お前、前からこんなんか?」 元から痩せているのなら問題は無い。 しかし、どうもそれは元からの幸村では無い様な気がする。 昨日までの幸村の事は全く知らないが、それでも、何となくそんな気がした。 強いて言うなら、今まで色々な人々を見てきた葎の感だ。 「・・・」 「幸村」 俯く幸村に、葎は顎を掬って顔を上げさせた。 強制的に言わせたいわけじゃない。 ましてや、無理矢理どうこうしてまで言わせようというつもりもない。 ただ、どうも布団を退けた時から幸村の様子が普通じゃなかった。 「…最近あんまり食べたくなくて…」 「食べてないのか?」 浅くコクンと頷く幸村に、葎は溜息を吐いた。 「よくこんなんでセックスなんかしてきたな」 「必死…だったから」 「そうか。なら、取り敢えず今日は神楽の建前もあるし『調べる』が、明日からは少し太ってもらうぞ」 「…太るって何か嫌な言い方」 葎の言葉に、幸村は沈みがちになっていた気分が少し上昇した様に笑う。 「お前は笑ってた方が似合うよ」 優しく微笑むと、葎は再び幸村を布団の上に押し倒し、首筋に唇を押し当てた。 「ンっ…は…痛…ッ」 チュッ、ときつく吸われ、幸村の白い首筋に赤い一つの花が咲く。 他に散りばめられているものより、大きく、強く。 チクリと走る痛みに幸村は眉を顰めるが、それも束の間、葎は体を幸村の脚の間に入り込ませ、そのせいで更に着崩れた着物の上から幸村自身をやんわりと揉みこんだ。 「ぁあっ、ダメ…あっ、あン」 強過ぎる快楽に、幸村は涙を流した。 触られている所に体中の神経が集中した様に、葎の手に合わせて体がビクビクと反応する。 間接的に触られる布の感触が堪らない。 「やだ…ヤ…イちゃぅ…ふぁ…」 「良いぜ、イけよ」 妖しく笑う葎は、更に幸村自身を強く揉み込む。 「ダメ・・ぁああッ!!」 ドクンッと強い快楽のままに華液を着物に出してしまい、幸村はビクビクと数回体を痙攣させ、体を弓なりに反らせた。 達したせいでぐったりとした幸村に、葎は容赦なく再び愛撫を始める。 しかし、今度は間接的にではなく、直接。 「はぁンっ…そんな・・続けては無理…ッ!あっ、アぁっ」 達ったばかりでまだ頭がボーッとしているし、何より過度に敏感になっている。 しかし幸村は必死にもがくが、体は正直だ。 ペニスは再び鎌首を擡げ、早々に涙を流し始める。 出した白濁は着物を汚し、着物に染みたそれが葎の手を僅かながら汚していく。 「無理じゃないだろ?着物がベタベタだ。それに、ここはもうこんなんになってるし、良いんだろ?」 葎は幸村のペニスをわざとクチュクチュと厭らしい水音をさせながら擦り、言葉で幸村を攻め様とするが、幸村にはあまり聞こえてはいなかった。 快楽で頭がおかしくなりそうだ。 脳を犯された様に考えて理解する事が困難になって、視界はフィルターが掛っている様に霞む。 実際は、葎の手が確実に幸村のポイントばかりを攻め、理性のきかなくなった涙で視界がきかなくなっているだけなのだが、幸村にとってそんなのはどうでも良い。 やっぱり、ここには『忘れられる時』が存在するのだ。 「葎…り・・・つ・・・あンッ・・ふぁ…ぁ」 「今度はこっちでイってみるか?」 言うと、葎は幸村の先走りで濡れた手を秘部へと滑らせ、つぷ、と指を挿入る。 そこはすでに柔らかく解れて来ていて、指を根元まで挿入るのは容易かった。 「ぁッ…ヘンな・・・感じ…ひぁんッ」 グチュグチュと音を立てて、中を掻き回す。 今まで、これ程指で中を掻き回された事は無かった幸村は、布団を掴んでその快楽をどうにか和らげようとする。 しかし、それだけでどうにかなる程、幸村の体は処女的ではない。 今まで散々慣らされてきたそこは、ヒクヒクと形を確かめる様に蠢く。 指が動く度に内で渦巻く欲が、白濁を吐き出そうと幸村の体を否応無く絶頂へと導いていた。 「もう一本…入ったの、分かるか?」 「は…わかんな・・・ぃ、ンっ、ぁあっ、あっ…アッ」 もう一本、即ち指が2本入っていると葎は言うが、実際にそこに挿入られているのは指3本だ。 「ヤあぁあっ…!掻き…回さなぃでぇ…っ!りつ、葎っ」 完全に緩んだ幸村のそこは、物足りな気に収縮を繰り返し、葎の指に吸い付いてくる。 不敵な笑みが、葎の口元に浮んだ。 「俺ももう限界だ。イクぞ、幸村」 「ん…ひぁあッ!あ…苦し・・だめぇっ」 葎の猛り勃つそれを、一気に幸村の秘部へと推し進めた。 ズン、と圧迫感のあるそれは、幸村を確実に絶頂へと導いていく。 圧迫感が幸村を駆り立て、必死に葎にしがみついた。 「幸村…」 ぐいっ、と幸村の腰を持ち上げ、更に深く、奥まで幸村を貫く。 「ひぁあっ!!ヤ…苦しぃ・・・も、ヤ・・ぁあああッ!!」 秘部の圧迫と胸の突起への愛撫、そして首筋に刺さる様な痛みを同時に感じた幸村は、葎にしがみついたまま意識を手放した。 「…ン…」 「おっ。お目覚めか?」 思い瞼を無理矢理開け、目を擦りながら幸村は視界に入ってくる人影に、意識朦朧の中で視点を合わせようとする。 声が掛けられ、ふわりとした感触が、頭を撫でた。 「ぁ・・・」 声を出そうとしたが、それは叶わなかった。 完全に声が枯れている。 風邪をひいて声が出なくなった時以上に、声が掠れている様だ。 「声、変だぞ」 笑う声音の持ち主に、やっと焦点が定まってきた。 黒い着物を、腰で帯を締めて上着をを下にだらんと肌蹴させている葎。 煙管をふかして、紫煙をくゆらせているその姿が、過去の誰だったかを思い出させた。 「だるい…」 息をするのにもえらく感じる肺に無理矢理空気を送り込んで、掠れる声でやっとその言葉だけを吐き出した。 息を吸い込む度に腰に痛みが走る。 「そりゃそうだろ。昨日は結局お前、失神したまんまだったし。そんなにヨかったか?」 再び煙を吐き出しながら笑って言う葎に、幸村は顔を赤く染めた。 「体、えらくはないか?」 「大丈夫…ダルいだけだから」 「そうか。じゃあ、早速午後から仕事、見に行ってみるか?」 「ん。今何時?」 外は明るく、朝陽のそれとはまた違う。恐らく『朝』と呼べる時間ではないだろう。 「酉刻ってとこだな。俺は一先ず仕事行くから、後で誰かに迎えに来させる」 そう言って、葎は幸村の髪を一撫でして立ち上がる。 どうやら幸村が起きるのを待っていただけのようだった葎は、屏風で隠された囲の中で着替える。 衣擦れの音と帯を締める音がして、葎は主らしい、恐らくはここでの正装だろう格好で再び幸村の前に姿を見せた。 均等の取れた体と整った顔立ちにとても似合う服。 昨日と同じデザインで、しかし今度は縁取りが真紅だ。 「ついでに、着物の採寸もさせるから、その格好のままでいろ。…羽織程度は着て、だけどな」 幸村の体に視線を落とし、そう言い残して葎は出て行った。 幸村は今の自分の格好を見下ろして、うわぁ、とか溜息を吐きそうになる。 肌には大量の鬱血がくっきりと自己主張していた。 …・・・・・・――――― 「葎、そろそろ僕仕事に戻るよ。明日のお客様が用意だけしとかないと」 「ああ、あんま無理すんなよ」 「楼主がそんな事言っても良いの?」 くすくすと笑いながら、幸村はそう返して、葎のいる部屋を後にした。 結局、幸村はこの桜楼閣に来て『調べ』を終えた次の日、李蝶と不知火が幸村の所へ着物の採寸に来て、色々な事を二人に教えてもらった。 昼間はこの二人に、そして夜は葎に。 葎は、不知火と李蝶が幸村に与えた知識以外の知識を与えた。 そして、水揚げを無事終え、今に至る。 これから来る客は、初めて花魁として自分を抱いた初めての客だ。 もう幸村の元へ通い始めてから、両手でも数え切れない位、その客には抱かれている。 そろそろその客の準備をしてしまおうと、幸村は座敷へ小姓たちを呼んで仕度を始めた。 着物はもう少し後で自分で着るとして、一先ずは客の好みに合わせて膳の模様を、先刻まで居た客の好みだった紅葉から、桜へと変える。 そして、燈籠も桜模様に。 少しの気遣いが、客には好印象を与えるのだ。 「幸村」 突然開け放たれた障子の向こうから、声がかけられた。 基本的に、障子を背にして指示を出す幸村だから、声をかけられる時は後からが多い。 「ほたる、どうしたの?」 そこに立っていたのは、あからさまに眠そうな顔をした、自分と同期のほたるだった。 |
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