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第2幕四話 旋律奏でる時空の果に

「初めまして」
そう、部屋に入っていきなり声をかけられ、サスケは一瞬戸惑った。
若い男が一人、のんびりと座椅子に座って寛いでいる。
ここにいるという事は楼主なのだろうが、それを確かめたくても本人に「あんたが楼主か」などとは聞けず、丁寧な言葉で聞こうにも、はっきり言って先刻の事も有り、色々と動揺している今のサスケには、そんな丁重な言葉など持ち合わせていなかった。
しかも先刻の李蝶と名乗った花魁に聞こうとも、その花魁はサスケをそこまで案内するとさっさと仕事に戻ってしまって聞き様が無い。
サスケが案内されたのは、だだっ広い部屋だった。
宴会が出来そうな位広いくせに、そこはそんな目的で使われるわけではないと物語る着物や卓上がそこここにある。
お世辞にも整頓された部屋とは言い難いが、でも汚くは無い。隔てが無い家、とでも言ってしまえば、綺麗に整っているのだと思う。
家具を全て設置して、置くべき所に物を置いて、そのまま部屋を隔て別ける壁が取り除かれた様な、そんな感じ。
「どうぞ座って」
目の前にいる男は、にっこりと笑ってサスケにそう促す。
促されたのは男の目の前にある座椅子。
男とサスケを隔てる物が机さえも無く、茶托が横の方に申し訳程度に置かれているのみだ。
誰かが、サスケの訪問の為に用意したのだろう茶まで茶托の上にあったりするものだから、退き返して何も無かったかの様にしたいがそうもいかない。
恐らく楼主だろう優男を目の前にして、後戻りしたくてもこんな状態では更にそれは叶わず、仕方なくサスケは促されるままに座卓に腰掛けた。
目の前で胡坐を掻いて笑っている男は、何処にも嫌味などまるで無くて、反対にそれがサスケには気に入らない。
そんなに歳は行っていないだろうに、こんな大きな一級楼閣の主で、恐らくは陰間寵の最高の財力、権力を持っているだろう。
この男が幸村を雇っている。
そう考えるだけで怒りが湧いて来た。
それはただの八つ当たりだと頭では分かっているのに、その衝動は止められない。
結局、自分が目の前にいるこの男に対して感じているこの感情は嫉妬の何物でも無い。
サスケもそれに気付いてはいるものの、まだ子供の様な考えの、自分の物を取られたという意識が消えないのは、きっとあまりにも幸村に対する感情が強すぎるからなのだろう。
今幸村は、この男の腕の中にいる。そう思えて仕方ない。
「サスケ君、と呼んでも良いかな?」
「好きに呼べよ」
そう素っ気なくふいっと視線を逸らしてサスケが返すと、楼主は苦笑いを零した。
「えらく俺は嫌われてるみたいだね。俺が何かした?」
「別に」
「なら、こっち向いて、少し位笑ってくれると嬉しいんだけど」
おどけた様に言う男は、何だかその笑顔が似合っているようで、しかし似合っていない。
矛盾している様ではあるけれど、それに見合う言葉は、やはり持ち合わせてはいなかった。
「さっさと要件言えよ」
イラだった様にサスケが噛み付く勢いで男を見ると、男は少し驚いた様だった。
しかしそんな風に驚かれた所で、サスケの目付きの悪さは生まれつきだ。今更にこやかに等できる筈もない。ましてや、この男の前ではそれが出来たとしても、したくない。
「えっと、じゃあ、率直に言おう。幸村の事なんだけど」
「…何だよ」
男の口から幸村の名前を聞いた途端、サスケの目付きは更に厳しい物になった。
馴れ馴れしく幸村の名前を呼ぶな。
そう、言ってしまいたかった。しかし、それも出来ない。
出来ない事だらけで、サスケにはもどかしかった。
言いたい事も言ってしまえない。
この男を腹癒せに殴って、幸村を奪い返して、例え自分とは離れて暮らしていても良い。幸村が他の男に抱かれる様な場所意外の所へ連れて行きたい。
「前は君と一緒にいたみたいだね。大体の事は聞いてる。町に出されたんだって?」
「だから何だってんだよ」
「冷たいなぁ。じゃあ、質問を変えようか」
男の目が、嫌らしく生笑いな物へと変わった。
先刻の笑いより、こちらの方が似合うと思えてしまう。
「ここへは何しに?」
それこそ率直な男のその質問に、サスケは言葉を詰らせた。
どう応えるべきか、返答に迷う。
しかしそれに返答して、この男を納得させる事が出来る『答え』は思いつかない。
どう答えようとも、恐らくはこの男の思うツボだろう。
客として、と言えば「ならば何故幸村を捜して問い詰めた」という事になるし、「幸村を連れ戻しに」と言えば、それこそ先刻の事態で警察沙汰にでもなるだろう。
この会話は、この男が主導権を握っている。
楼閣へ押し入った者と、楼主。
「…幸村が本当に居るのか確かめに」
これが、今サスケに答え得る最善の言葉だった。
客としてではなく、奪還者としてでもなく…。
「で、どうだった?」
「居た」
「だろうな。俺が雇った」
「テメェっ!!」
「っと、勘違いすんなよ」
カタンッ、と畳と座椅子のぶつかる音を立てて座椅子から立ち上がろうとしたサスケは、しかし、男の言葉によって止まった。
「最終的には幸村から雇ってくれと言って来たんだからな」
「な…んだと・・?」
きっかけを与えたのは葎だが、結局最後は幸村が働きたいと言ったのだから嘘ではない。
サスケの瞳が、段々と暗く曇っていく。
才蔵達から、話には聞いていた。
幸村が居なくなったと緊急の連絡を受け、数日経ってから再び受けた連絡は、幸村の居所はもしかしたら陰間寵かもしれない、というものだった。
身を隠せる場所で、十勇士には想像もつかないところ。
九度山からそんなに遠くない所で、寝泊り出来る、もしくは働ける所。
確かに、陰間寵なら男ばかりだから身を隠すなんてことは容易いし、色町に度々通っていた幸村だから、まさか陰間にいるなんて十勇士には想像もつかない。
それに、幸村の容姿だ。
陰間でならば、いくらでも働く所なんてあるだろう。
でも、こんな所で幸村の華奢な体付きと女顔が役立っているというのは気に入らないし、それがこんな風に裏目に出るとは思っていなかった。
ただ、信じられなかった。
それでも、こうなってはそれも信じざるを得ない。
恐らくはこの楼主は嘘は言っていない。
それは、サスケの直感的な勘が、そう言っているのもあるけれど、何よりも幸村が否定をしなかった。
「信じる信じないは勝手だ。だけどな、これだけは言っておく」
男は、一瞬の間を置いた。
「俺はあいつを気に入ってるし、手放す気は無い」

―――・・・・・・…

「幸村、さっきの人、良いの?」
狂とほたるの元へ戻った幸村は、涙を拭ってにっこりと笑っていた。
その笑いは儚げで、感情を押し殺している時のそれの何物でもない。
「良いの、何でもないから。ごめんね?狂さん」
「・・・」
狂は何も言わず、ほたるに酌をさせた酒を一気にと飲み干すと、さっさと来いとでも言う様に歩み寄った幸村の腰をぐいっと引いて自分の膝元へと乗せた。
「ちょ…狂さん?何か怒ってる?」
眉間の皺が、先刻の騒動の前よりも濃くなっている気がする。
「何でもねぇよ。さっさと後一枚脱げ」
多少荒々しい口調で狂が言うと、幸村はクスッと笑った。
辛うじてそれを結びとめていた帯を解くと、襦袢はパサと畳の上に落ちる。
一糸纏わぬその裸体は、滑らかな体のラインが際立った。
座らせられたままの下肢は落ちた襦袢で隠れていて、ゆらゆらと揺れる灯の影で、薄い胸板はまた別の色気を醸し出していた。
「ほたる、お前もさっさと脱げ」
ほたるも後一枚、着物を残している。
立ち上がって襦袢を脱ぐと、幸村同様、本人の意思とは関係なく花魁特有の色香を漂わせていた。
同じ男なのに、どうしてここまで体系が違うのかと思うときがあるが、それも個々の体質や生まれ等で違ってくるのだと言う事をしっかりと理解したのは、ここへ来る様になってからだった。
「ほたる」
呼ばれ、すっと出された手にほたるが掴まると、幸村は狂の膝から降り、自分はどうすれば良いのかと、多少視線を漂わせた。
が・・・
「幸村」
名前を呼ばれて狂を見ると、目で「やれ」と促された。
その行動が意味するものは・・・
「ッ…!ヤ…幸っ…村ァっ・・・あ…」
狂の指す事を瞬時に察した幸村は、躊躇うことなくクチュ、と厭らしい音を立ててほたる自身を口に含む。
今迄色々な客に教え込まれた舌使いは、伊達じゃない。
立ったままのほたるはカクン、と足から力が抜けそうになって、咄嗟に狂に掴まった。
立たされたままフェラをされると、一気に腰に来る。
「幸村…ホント…ヤめ…ひぁ…ぁあっ」
段々と息が上がって、声が艶を帯びていく。
ねっとりとした口腔の感触がペニスに絡み付いてきて、触発され、体中の敏感な神経が全てそこに集った様な気さえする。
途切れ途切れで意味を成し得ていない自分の喘ぎと、自身を濡らす幸村の唾液と自身の愛液が混ざり合って厭らしい水音が、ほたるの脳を支配した。
「ぁ・・・あ…ン、ふ…」
息を殺すように唇を噛み締めてその快楽を必死に受け流そうとするが、そんな事は出来る筈が無い。
今迄散々慣らされてきた体は、いつの間にか自ら浅ましく腰を揺らしてしまっていた。
「幸…ダメぇ…も、イ…く」
幸村は先刻から、ほたるの弱い部分を舌で巧みに攻めてくる。
ほたるにとってそれは焦らされているようでたまらない。
出したくも無いのに勝手に出てくる涙が、ほたるの頬を伝った。
狂はそんな花魁二人の痴態を、愉しげに傍観しているだけだ。
「ほたる、良いよ、出して」
「んぅ…ッ!ぁああッ!!」
口にほたるを含んだまま幸村が促せば、その言葉の震動がほたるを頂点に追いやったのか、呆気なく白濁を幸村の口の中に吐き出してしまった。
「はぁ・・はぁ…ちょ・・・幸村っ」
荒く息をしながら、くた、と力なく畳に座り込んだほたるは、幸村が目の前で自分の出した物を飲み込むのを見て慌ててそれを阻止しようとしたが、時既に遅し。
こくん、と幸村の喉が上下するのをみて赤面した。
「何で…飲むの…」
自分と同じ花魁に、自身が放った白濁を飲まれてしまう日が来るとは、夢にも思っていなかったほたるは、幸村にそう気だるく言うが、幸村はそれに対してにっこりと笑った。
「何と無く」
「最悪・・」
「何で?」
「バカ幸村・・・」
「え〜、何で?」
「だって普通…」
「ほたる」
ほたるは幸村に毒を吐いてみるが、その悪態も狂の一言で止まる。
狂の存在を忘れていたわけではない。しかし、狂の存在よりも幸村に飲まれたということの方がショックだっただけ。
甘い声音を含んだ狂の声は、一度治まったはずの自身にずくん、と響いた。
「ねぇ、狂・・・」
「狂さん・・」
『物足りない。』
ほたるは達って気だるいが満足なんてしていないし、幸村はほたるへのフェラで気分が昂ぶっている。
自分でも分かる位に体は性に貪欲で欲張りになっていた。
花魁なんて、そんなものだ。
貪欲でなければやっていけないし、割り切らずにいつまでも『昔』を引き摺ったままだった花魁が壊れてしまう様を、二人は見た事がある。
絶対に、自分はあんな風になりたくはなかった。
好きな相手がいるのに家柄のせいでその恋は実らず、それでも諦めきれずに嫌々客の相手をして、壊れてしまった花魁。
そんな花魁は、結局自分から陰間に来たにしろ、家へ無理矢理帰される事がある。
滅多にある事では無いが、そんな花魁の末路は悲惨なものだ。例え好きな相手が傍にいても、それが分からない。
心が壊れてしまった、花魁・・・。
でも、それは思う人がいる場合だ。
好きな人なんていない。
ほたるも、・・・幸村も。
例え好きな人がいても、もうどうにも出来なかった。
客への色目の使い方だけは嫌という程知っている。
煽り、挑発して、無理矢理でも良い。自分を抱いてくれさえすれば。
セックスに慣れた花魁にとっては、多少強引な位が丁度良い。
「狂さん、シて…」
「狂・・・」
吐息と共に出す幸村の艶を帯びた声と、達した後のほたるの気だるげな顔は、狂を魅了して止まない。
しかし、二人同時に挿入る事など出来ないのは百も承知。
ならば・・・
「…ほたる、来い」
多少考えるフリをして、狂は妖しく笑うとほたるを呼んだ。
「幸村の方を向いて自分で挿入てみろ」
「え・・・?」
狂はいつも意地悪だ。
二人の時でも、昂ぶらせるだけ昂ぶらせておいて、いつまでも焦らしてくる。
どんなにねだっても、それに応じようとはしない時だってある。
しかも今日に限っては、幸村の方を向いて。
自分の感じている顔を、幸村に見られてしまう。
どうすれば良いのか戸惑うが、狂が待ってくれる筈もなく、それを拒否する事などほたるには出来ない。
狂の着物の帯を解いて、着物の前を寛げる。
いつ見ても、他の誰よりも大きいと思う狂のそれ。
それに、ほたるはゆっくりと腰をゆっくりと下ろして行った。
「ン…ぅ・・・は、ぁ…」
解されていないそこに、ギチ、と窮屈そうに挿入ってくるそれは息が詰まる位大きくて、ほたるは眉を潜めた。それでも、経験が物を言うとは良く言ったものだと思う。
先刻の幸村のフェラでほたるが放ったものが、多少なりとも秘部の方へと来てしまっていて、軽い潤滑油代わりになる。
断片的に出る声と共に、息がどんどん抜けて行く。
ほたるは苦しくて肺に息を入れる事が困難で、どうすれば良いのか分からない。
「狂・・キス、して…」
なかなか腰を落しきれなくて、ほたるは狂の首に腕をかけて後を向きながら助けを求める。
体に力が無駄に入ってしまっていてはどう仕様もない。だから、狂のキスをねだって、自分の体から、力を抜かせて欲しい。自分では、それが出来ない。
「仕方ねぇな…」
「ん…ふ、ぅ…」
唾液の混ざる音。
上がる息遣い。
視界の利かない目。
段々と、ほたるの体からは力が抜ける。

『ズッ―――』

「っ…ぁああッ!」
太腿に狂の手が掛けられたと思った途端、ほたるは悲鳴の様な喘ぎをあげた。
ぐちゅ、と厭らしい音を立てて、熱く猛った狂が一気に中へと入ってくる。
「狂・・ダメ・・・ぅごかな…で、キツ…ぃ」
「そうか?前はこんなんになってっぞ?」
ふいに後から伸びてきた狂の手は、ほたる自身をなぞり上げていく。
「ぁあッ!あ…ヤ…ィきそ…」
ビクンッ!とほたるの体が跳ねるが、あとほんの少しの刺激でイけるのに、それは狂の手で止められた。
「おっと、まだイくなよ。 幸村」
狂は一体何を考えているのか、ほんの少し離れてほたるの前に座っている幸村を呼ぶ。
先刻からほたるの痴態を見せられ、その淫靡な喘ぎを聞かされている幸村は顔が赤くなってしまっていた。
「…なに?」
恐る恐る問いかける。
何だか嫌な予感がしてならない。
「ほたるのを自分で挿入てみろ」
「ぇ…」
にや、と笑う狂に、幸村は戸惑う。
そんな幸村を見ても狂は如何にも楽しげで、まるで花魁同士の痴態を見るのを楽しんでいるかの様だ。
否。楽しんでいるのだろう。このトップを争う二人の痴態を。
「さっさとしろ」
狂はくい、と幸村を顎で促し、ほたるの先走りを指先に掬った。
「んぁっ…」
その指先にも感じてしまうほたるは、ビクッと体を反らせる。
仕方なく幸村は、そろそろとほたるの元へ行くと、ほたるの肩へ手をかけた。
慣らされていない幸村の秘部は濡れている筈も無く、そのままきつく張り詰めたほたるのペニスが中へ入るなんて有り得ない。
「どうした?」
戸惑って、そこから中々行動を起こそうとしない幸村に、狂は、やはりにやりと笑って愉しそうだ。
「・・仕方ネェな。舐めろ」
狂は幸村に自分の手を差し出す。
それを、幸村は黙って口に含んだ。

…・・・・・・―――

「ざけんじゃねぇぞ」
怒りを押し殺した様なサスケの声が、広いその部屋にやけに響く。
手放す気は無い。そう、はっきりと楼主は言った。
その楼主は、目の前で笑っている。
しかし、サスケに望みが無い分けではない。
「…楼主が一人の花魁にそんなに肩入れして良いのかよ」
「良いわけないだろ。それが問題だ」
はぁ、と突然楼主の笑みは消えた。
「なら、どうする気だよ。意味ねぇだろ」
「でも、取り敢えずはこっち幸村は居るんだ。地道に考えるさ」
悠然と、しかし困った様な笑みを浮かべる。
それを見たサスケは、ふと何かを思い出したように、口元には笑みが零れた。
「なら、俺も俺で好きにやらせてもらう。ここに客として来るなら問題ないよな?」
「構わん。でも、どうする気だ?」
「こっちに手が無いわけじゃねぇんだよ」
不敵な笑みを浮かべたまま、サスケは立ち上がって楼閣を後にした。



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