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第2幕伍話 春行く末に… 舌を這わせる度にクチュクチュと唾液の音が響く。ほたるは相変わらず狂を内へ挿入られたまま、時折狂に体を揺さぶられては小さく喘いでいた。 「ねぇ狂さん、もう良いでしょ…?」 散々指先で舌を遊ばれていた幸村は、狂の指から舌を離した。 銀の糸が、幸村の舌先と狂の指先を細く繋ぎ、やがて切れる。 「仕方ネェな」 にやりと笑う狂の笑み。 低い狂の声は、更に低く、その声に惹き込まれそうだ。 狂が腕を伸ばせば、幸村の秘部へは簡単に手が届いた。 幸村の唾液が狂の手をてらてらと光らせている。 「んっ…」 くちゅ、という音と共に、何の抵抗も無く、幸村のそこは狂の指を簡単に受け入れた。 臀部を広げて狂の指は巧みに幸村を弄び、慣らしていく。 「ンぁ…ぁ・・ん」 更に厭らしい音を立てて、そこは狂の指を更に奥へと飲み込む。 中で曲げられ、指をバラバラに動かされ、気付いた時には幸村のそこは狂の指を二本銜えこんでいた。 執拗に中を弄られ、ひく、と引きつる様に更に奥へと招いている幸村の秘部。 ぐちゅ、と一際大きく狂が内を抉った途端、幸村の体はビクンッと跳ねた。 「やぁあっ!ダ・・・メ…んっ」 「ここか」 妖しく笑う狂の腕に、幸村はしがみ付く。いっそ辛い程の快楽に、幸村は涙を流した。 「ひぁああっ…あっ…ぁっ」 そこを擦られる度に、ビクンビクンと体を跳ねさせる。 まるで悲鳴を挙げるかの様に、幸村はひくん、と息を詰め、喉を反らす。 「もう良いだろう。来い」 くちゅん、と糸を引いて、狂は幸村のそこから指を抜く。快楽をどうにか遣り過ごした幸村のペニスは張り詰め、愛液が滴っていた。 狂に言われるがまま、幸村は達してしまいそうだった体をほたるへ向け、自分のそこへほたるのペニスを宛がう。 「幸…むら」 くちゅ、と音を立てて、幸村はほたるのペニスへ腰を落としていく。 「ンっ…はぁ…ぁっ・・ヤっ…」 「ぁっ・・キツ…」 幸村が腰を落としていく度に、ほたるの喘ぎも大きくなった。 今までには無かったその感覚に、ほたるの顔は快楽へと堕ちて行く。 後には狂を銜え、前は幸村の中で締め付けられる。 「どうした?」 「ぁあっ…アッ…ヤだ・・ヤ…」 「狂・・・ンぅ…は…ァ」 意地悪くそう言う狂は、やはり余裕の笑み。 下から狂にぐん、と貫かれ、ほたるのその震動が幸村にまで伝わる。 その微妙な揺れの時間差がもどかしくて、ほたるは自ら腰を振ってしまう。 どうして良いのか分からず、動く度に狂が中で熱く猛って、幸村の中で締め付けられる。 幸村もほたる同様、無意識に自ら腰を揺らす。 やはり、どうもがいても花魁は『淫乱』と呼ばれるべき存在なのかもしれないと、拙い意識化で幸村は思う。 何度と無く客から言われたその言葉に、最初は抗ってはいたものの、李蝶に誉め言葉だと思えと言われてから、それには抗う事をやめた。 「ほ・・たる・・・ぁっ…ほたるっ」 幸村はほたるに抱きついた。 「ヤ・・幸村ぁ…ン・・ん」 ほたるは狂と幸村に挟まれて、もう自分ではどう仕様もない。 桜楼にきて更に長くなった幸村の髪と金の綺麗なほたるの髪が緩く絡まる。 ほたる越しに見る狂は、とても楽しそうで、それでいて何かを狙っているかの様な眼。 燃える様な赤い眼が、幸村の視線と絡まった。 「いくぞ」 ほたるを下から突き上げ、狂はスパートをかけた。 男といえど、花魁は狂にとっては軽い。 「やぁ・・っ!あっ・・イぁあッ」 「ンぅ・・狂さ・・・イく…イっちゃ・・」 「「ひぁああああ―――」」 ほたるは中で熱い迸りを感じたと同時に、自分も幸村の中へと白濁を放った。 ぐったりと凭れかかってくる幸村を、ほたるは受け止める。 力なく動かない幸村は、意識を失っている様だ。 「ったく、相変わらず早ぇな」 そんな幸村を見た狂は、喉の奥で低く笑った。 「あ、そうそう。ねぇ狂さん、明日も登楼るつもりだったりする?」 情事を終え、だるい体を起こす気力も無く、ほたると幸村は一つの布団の上で寝転がったまま、幸村が狂にそう問いかけた。 幸村が目覚めた時には、狂はさっさと自分の着物を着て酒を煽っていた。 それでも狂がまだ帰る素振りをみせないから、無理矢理起き様としなくても良い。 「あ?」 「もし来ても、俺らいないから」 ほたるが仰向けに寝転がっていた体をごろんと反転させる。 そのせいで幸村に近付く事になって、その触れるか触れないかの距離に幸村は擽ったそうに身を捩った。 「僕達、明日はお休みv」 「そうかよ」 にっこりと笑ってそういう幸村に、狂はふん、と鼻先で笑った。 明日は二人共休暇を入れた。 御職争いがここ最近続き、そのせいで二人は殆んど休み無しで客をとらされた。 ある程度の融通の利く上層部だが、無下に一日に何人も客を断わるわけには行かない。 ましてや、馴染み客ならば特にだった。 御職争いで陰口を叩かれた事はあったが、最近はそれもなくなってきている。 この4人に張り合える者など、居るはずも無かった。 まだ幸村が桜楼閣へ来たばかりの頃に色々世話をしてくれた『李蝶』と『不知火』。 幸村が色々と教わっていた約一ヶ月の間に、勿論葎に御職の事も聞いていた。 初めは、まさか自分によくしてくれている二人が、楼閣の御職を争っているとは到底思えずにいた。 しかし、今となっては自分もその御職を争う中に入ってしまっている。 御職を争っていると、色々と大変になってくるという事を気付かされたのは、狂が馴染み客になってからの事だった。 ただ、争っているとは言っても基本的に仲が悪いというわけではない。 仕事上での売上げ、ただそれだけなのだが、この御職のシステムも店にとっては好都合この上ないものだ。 楼閣の売上げが上がり、その分風格がつく。 いつかは御職争いをしている花魁を追い越そうと、下克上を狙う色子達。 追い越されまいと御職を争う上層部。 それがあってこそ、この桜楼閣は成り立っていた。 御職を争っている4人全員が一度に休暇を取ってしまおう、と提案したのは李蝶だった。 一日の休暇が、この4人にはかなり御職に響く。 それでも、そろそろ休みを取らないと疲労がたまる。 ならば、 「一緒に休暇を取れば誰かの売上げが変わるわけじゃねぇし。な?」 そう言って李蝶は笑っていた。 楽しいことが大好きな李蝶の考えそうな事だ。 「で、僕は明日不知火と一緒に街まで行くの。何なら狂さんも行く?」 「誰が行くか」 「何で〜?ココじゃなくてプライベートでなのに」 コロコロと笑っている幸村に、狂は一蹴した。 ほたるはほたるで特に興味も無く、二人の会話をのんびりと聞きながら、二人の会話はいつもこんな軽いのかと、眠い頭の片隅で思う。 自分と狂の会話と言えば、いつもどちらともなく話して、途切れて、それの繰り返し。 それでも、狂は嫌な顔一つせず、狂の事に関して質問をしてはぐらかされる時はあっても、自分の話を聞くときはちゃんと聞いてくれていた。 第一印象はもう殆んど覚えていないが、かなり馴染み深い客になっている事は、ほたるにも分かっていた。 そして、今回の件に関して楼主が許した事で、楼主と狂は何らかの関係がある事も分かった。 「有難うございました」 桜橋まで狂を見送りに来たほたると幸村は、桜橋を渡りきる一歩手前で礼をとる。 狂が急に帰ると言い出して適当に着た着物だから、礼の姿勢を取ると胸元が肌蹴るが、隠す必要のある物がついているわけでもないし、どうせ見るのは先刻まで全てを晒していた相手だ。 「またのお越しを」 幸村はにっこりと微笑み、ほたるは半分無表情のまま、今迄何度と無く言った言葉を口に乗せる。 馴染み客を見送る際、必要以上の言葉を発する事は、楼閣の外では何故か許されなかった。 何故か神楽や葎に尋ねても、それだけは未だにはぐらかされ続けている。 守っている者などは殆んど居ないが、今回だけは、近くに神楽がいるので守るしかない。 神楽は、恐らく楼主が接待でもしていたのだろう客を送り出してきた所なのだろう。 狂は軽く片手を上げて寵門へと向かい、それを見送ると、ほたると幸村は元来た橋を戻って行く。 「ねぇほたる」 「何?」 「狂さんって何の仕事、してるのかな…?」 「…さあ。今までずっとはぐらかされてるから分かんない」 立ち止まり、月の浮ぶ夜空を見上げ、ほたるは片手を挙げた。まるで、その月を掴もうとしているかの様なその仕草。 胸元が大きく開け、ほたるの色素の薄い髪が月明かりに照らされて金に見える。 神秘的に照らし出されたほたるは、楼閣を行き交う人の中にいてさえも綺麗だ。 「・・・そもそも、仕事してるのかな?」 「…さあ、どうだろ」 「やっぱり、狂さんって不思議な人…」 そう溜息混じりに呟きながら、橋の上で立ち止まったまま、ほたる同様空に片手を挙げた。 月明かりは幸村の漆黒の髪でさえも艶に艶を重ねて映えさせ、まるで舞いを舞う様に、二人の袖元を照らしていた。 |
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